玄関へ本棚へ

 本日最後の授業は、男勝りで有名な女教師・妹尾による現代国語だった。
 事前に図書室でやると聞いていた為、授業開始時には既にみな図書室へと移動を完了している。
 授業が始まり、妹尾が今日の目的が単純に読書する事にあると説明した後、ふと思い出した様に付け加えた。

「そうだ。言い忘れていたが、担任の藍羽先生から今日は終礼をしないから、この授業が終わり次第帰ってもいいと聞いている。そこで、俺もこの授業中に帰る事を特別に許可しようと思う」
「やった〜」「おお〜」

 図書室内のあちこちでざわめきが起きる。

「静かに! ここは図書室だぞ!!」

 そう声を荒立てる注意する妹尾を、傍にいた司書の先生が睨み付ける。
 女子の方からくすくすと小さな笑い声が聞こえた。

「ごほん」

 妹尾は咳払いをひとつしてごまかすと話を続ける。

「あ〜、帰ってもいいと言ったがそれには条件がある。授業中に帰る奴は何でもいいから本を一冊借りて帰れ。その感想文の提出をもって本日の授業を出席したものと認める」
「ぶ〜」
「だから静かにしろと言ってるだろが!!」

 ブーイングした生徒に対し、そう怒鳴った妹尾はその後司書の先生にねちねちと文句を言われていた。
 まったく妹尾くんは昔から……とかなんとかかんとか。



ヤオヨロヅ物語
第三話 〜2nd:文学少女リテラチャー・メイデン
作:天爛

 
U:女教皇(The Higt Priestess)

正位置:知的でクールな態度・潔癖症・精神的な物を求める・勉学・研究心旺盛・深い考え
逆位置:わがまま・プライドが高い・感情的になる・偏見を持つ・冷たい印象


 夕焼けに染まった図書室。
 そこにいるのは一人の生徒。ショートカットに黒渕メガネ。俗に言う文学少女の類に見受けられる。
 図書室には他には誰もおらず、ただ『少女』が本のページを捲る音だけが支配していた。
 そして『少女』はその音さえ聞こえないかのように本に集中していたが、その集中はひとりの乱入者によって中断された。

  ―― タッ、タッ、タッ、タッ、ガシャッ

「待たせたな、フミ。そろそろ帰ろうぜ」

アキラ、『図書室はお静かに』だよ?  『フミ』と呼ばれた少女は、読みかけの本から目を離し、駆け込んできた少年に笑みを返す。
 少女の瞳には、少女によく似た少年が映っていた。
 よく似たと言っても、ただ似ているだけではない。フミの眼鏡がなければ誰も見分けられないだろうほどそっくりだった。

「アキラ、『図書室はお静かに』だよ?」

 蚊の泣くような声。でも、フミとアキラ、たったふたりの図書室。
 その小さな声で十分相手に届くのをフミは知っている。

「あっ、すまん」

 アキラがバスケ部の物らしいユニフォームを着ている点から想像するに、フミはこの少年の部活部活が終わるまで本を読んで時間を潰していた様だ。

 そして、それはある日まで確かに続いていた、いつものやりとり。

◆◇◆◇◆

  ―― ゆっさ、ゆっさ

 誰かに肩を揺すられて目を覚ました。
 僕は目をこすり顔を上げるとそこには見なれぬ少女がいた。
 光輝がまた爛さんに変身させられたのかと思い、その少女に尋ねる。

「あぁ〜、もしかして光輝?」
「えっ? ……あ、違います。私、図書委員の本舘栞(もとたちしおり)といいます。私、今さっき終礼が終わってすぐにここへ来たんですけど、その時にはもう神宿さんがいたので、もしかして前の授業は図書室でされて、そのまま眠っちゃったのに誰も起してくれなくて、そのまま置いてけぼりにされたのかなぁ。って思ってみたりするんですけど……あっています?」
「えと、たぶん?」

 しどろもどろになりつつも説明してくれた本舘さんに、疑問形で返事を返しつつ周りを見渡すと確かに他には誰もいない。
で、気づいた。僕はいま女の子になっている。  で、気づいた。僕はいま女の子になっている。声の高さ、頬に当たった髪の毛から考えて間違いないと思う。
 あっ、そうそう既に知っている一応説明しておこう。
 僕は強力な変異霊媒体質で幽霊に取り付かれると完全に取り付いたその霊(ひと)の姿になってしまう。で、いま変化してしまっているって事は、要するにいつの間にか誰かに取り憑かれているらしいと言うことで。
 もっときちんと調べておきたいけど……。 目の前に本館さんがいる以上、へんな事出来ないよなぁ。

「で、部活にいかなくていいのかなって思って起したんですが。……もしかして余計なお世話だったりします?」
「ううん、そんな事はないよ。ありがとう」

 うん。取り敢えず部室に行こう。 で、爛さんに相談しよう。
 一言お礼を言って、僕は読みかけの本を仕舞う為に立ち上がると本舘さんが残念そうな顔つきで僕に尋ねる。

「……あの、もしかしてその本返しちゃうの?」
「そのつもりだけど ―― 」
「読みかけなのに? 読みかけなのに読むの止めちゃうんですか?」
「あっ、いや、今度来た時にまた読もうかと……」

 思わず言いよどむ僕をこれでもかと本舘さんが畳み掛ける。

「今度って何時ですか? 明日ですか? 明後日ですが? それとも一週間後?」
「うっ」

 本舘さんの剣幕に思わず怯む。

「その時、既に他の人が借りていたらどうするのですか?! 同じ本を探してもこれ一冊しかないからカバンの中を探しても、机の中を探してみてもどこを探しても見つからないんですよ!?」
「そりゃ、借りられてるならそんな所にないだろうけど……」
「そ、そんな事はどうでもいいんですっ!」

 返すと言ったら今にも噛み付きそうな目つきの本舘さんに恐れをなしつつ、僕は最後の一手を口にした。
「でも、貸し出しの手続きって面倒だよね。僕今まで一度も借りたことないから貸し出しカードから作らないといけないし」

 そう言って時計をちら見し、そろそろ急がないと部活に遅れるという風を装ってみる。
「あっ、それなら大丈夫です。もう手続きしちゃいましたから」

 彼女の方が上手でした。

「えっ? もう? 」
「はい。どうぞ」

 本舘さんが差出した貸し出しカードを受け取る。きちんと僕の名前やクラス、出席番号まで書いてあった。いつの間に……

「えと、もしかして折角作ったこれが無駄になるのがいやだから、あんなに借りるのを薦めたとか言わないよね?」
「そんな事言いません」

 僕の憶測を、本館さんは簡単に否定した。

「この本は本当にお勧めなんです。昨日、近所の中学校から寄贈されてきた物なんですけど、いまの神宿さんにぴったり。もうこれでもかってくらいお勧めなんです。本当なら全部読んで欲しい所ですが、時間がないなら274ページと275ページの間ぐらいが特にお勧めです。ぜひ読んでください」
「う、うん」

 結局、僕は本館さんの勢いに負け、その本を借りて部室へ行く事となった。

◆◇◆◇◆

 図書室を後にして、結局どこにも寄らずに部室へと来た。
 トイレで今の姿を確かめようと思ったけど、女子トイレに入る勇気がなくて断念した。
「爛さんっ 遅れてすみません」
「いいわよ、別にやる事 ―― って、あんた、ヤオよね?」
「あっ ―― 」

 そう言えばいま、変化してるんだっけ。慌ててボケットから生徒手帳を出し、本人だと示す。

「と言うことはまた憑かれたのね?」
「みたいです」
「で、その子に心当たりは?」
「まだ鏡を見たないんでなんとも。本人に訊いてみたらどうですか?」

 そう、憑いている霊に直接訊けば話が早い。いったい誰で何の為に取り憑いたのか。

「さっきからやってはいるんだけど反応ないのよ。かなりの恥ずかしがりやなのかも。っと。ほい、鏡」

 爛さんは自分のカバンから手鏡を取り出し僕の方に投げる。
 僕はそれを受け取る。
 すると、そこにはどこかで見たことがある女の子が映っていた。
 あれ? どこで見たんだろ……。ちょっと思考を巡らせ、記憶を遡るとすぐにその答えが見つかった。

「あっ、夢だ……」

 そうだ、さっき夢で出てきた女の子。眼鏡をかけてないから一瞬分からなかったけど間違いないはず。

「夢?」

 僕の呟きが聞こえたのか、爛さんが訊き返してきた。

「あっ、はい。さっきの、六校時の事なんですけど……」

 僕はさっき見た夢を爛さんに伝えた。

◆◇◆◇◆

「ふ〜ん、つまり、いまヤオに取り憑いてるのはその『フミ』って女の子なのね」
「だと思います」

 夢に出てきた『アキラ』と『フミ』という二人の人物。眼鏡と服装以外は全く同じなんだけど明らかに僕の体は女。バスケのユニフォームを来た少年『アキラ』であるはずはない。だから消去法で『フミ』の方 ――

「ほんまにそうやろか? そう決め付けるにはちょっと情報が少なすぎへんか?」
「そうかなぁ、僕は十分だと ―― って光輝、いつからそこに?!」
「ちょうど、ヤオが夢の話をし始めた所らへんからやけど?」
「き、気づかなかった」
「まあ、邪魔せえへんよう気配消しとったさかい当然やろな。で、どないするん、ねえやん?」
「そうねぇ、成仏させちゃえば楽なんだろうけど……ゼロがいて取り憑かれているって事は強制的にあげるのは無理そうね……」
「と言うことは神クラス……とは行かなくとも天使クラス?」

 少し間をおいて爛さんが言う事がいきなりすっとんたけど、たぶん、僕の守護霊がなんか言ってそれに反応したのだろう。そういうことだから突っ込むだけ野暮である事は僕は知っている。
 爛さんはしばらく指を口元にあて考えるそぶりを見せると、不意にパチンと指を鳴らした。

「どうせ暇だたんだし、面白そうじゃない。やりましょ。謎解き」
「了解や、ねえやんならそういうと思ったわ」
「じゃあ、まずは ―― 」

 爛さんはそこで、一旦間をおき ――

「腹が減っては戦は出来ないっていうし、おやつにしよっか?」

◆◇◆◇◆

 夕暮れの図書室、部活の疲れが出たのか横ですやすやと眠るアキラをフミは目を綻ばせながら眺めている。
 だが、その至高のひと時の終わりをつけるように一人の少女がフミに声をかけた。

「妹尾さん。あの私そろそろ帰りたいんだけど、なんか新谷くんを起すと怖そうだから……」
 その図書委員と言う腕章を付けた少女は幸せそうに眠るアキラの方を申し訳なさそうに流し見する。

「ごめんね。あとはボ ―― じゃなくて私がしとくから、江岡さん先に帰ってもいいよ」

 江岡と呼ばれた少女は申し訳なさそうに返事をする。

「ホント? じゃあ、お願いできる?」
「うん。任せておいて」

 江岡が出て行くのを見送ったフミは、アキラを揺すり起しにかかった。

「アキラ、そろそろ起きないと下校時間過ぎちゃうよ?」
「ん〜、もう眠れない〜」
「どんな夢見てるかしらないけど、眠れないんだったら起きなよ」

 なおもゆすり続けるフミ。結果、その数分後、フミの努力によりやっと起きた。
 まあ、アキラはまだ半分以上寝惚けているが。

「 ―― おはよ?」
「はい、おはよう。アキラ」

 やっと起きたアキラはフミに向かってスチャと手を上げたかと思うと ――

「……おやすみぃ〜」

 再び眠りにつこうとする。

「こらこらこらこら」

 そんなアキラを何とか引き止めたフミは椅子から腰を上げる。

「んじゃ、ボクは先に教室で着替えてくるから本しまっといてね?」
「ん〜」

 まだ多少寝惚けているのか気の抜けた返事をするアキラ。その返事を聞き、くすりと笑いをこぼしたフミはそのまま図書室を後にした。
 フミが図書室から出て行くのを見送ったアキラはむくっと起き出したかと思うと、フミが開き放しで放置していった本を手に取り、なにか手紙のような物を挟む。
 そしてその本を元々あったであろう本棚へと片付けにいった。

 そしてそれが最後のになる、いつものやり取り。

◆◇◆◇◆

「 ―― オ? ヤオ、どうしたの?」
「あっ、爛さん……」
「どうしたのよ、一体。いきなりぼ〜としちゃって」
「……夢。白昼夢っていうんでしょうか? また夢を見ました」
「夢?」
「はい。……さっき話した夢の続き、かな」
「ふ〜ん。さっき聞いた夢もそうだけど、ヤオに取り憑いてる子が見せたと考えるのが妥当よね。あんたの体質に夢見の能力なんかなかったはずだし」
「やな。ワイもそう思う。ヤオマ、その夢の話も聞かせてくれへんか?」
「うん」

 僕は光輝が用意したお菓子と紅茶を手にさっき見た夢の話をした。

「 ―― という感じ」
「なる。取り敢えず、いまヤオに取り憑いてるその子は『妹尾フミ』って名前なのね」
「名前は愛称の可能性はありますけど……。たぶん」
「……そやろか。わいはどうも前の夢の話を聞いた時から違和感あるんやけど……」
「考えすぎよ。コーキは」
「やろか……」

 まだ腑に落ちない様子で考えを巡らせている光輝を他所に爛さんは僕に話を振る。

「ま、名前だけじゃちょっと調べようがないわね。他になんかない? 例えばカレンダーが掛けてあったとか」

 そう言われてさっきの夢をもう一度思い出して見る。そしてある事に気づく。

「あっ、図書室」
「図書室?」
「はい。図書室には間違いないんですけど、この学校のよりひと回り小さめでカウンターの形とかも違いました」
「要するに違う学校の図書室つうことやな?」
「うん」
「名前だけしか分からないのに学校も違うなんてどうやって調べろと言うのよ」
「他にはなんかないんか?」
「そういえば制服が違った」
「学校違うんだから、制服違うのなんて当たり前でしょ?!」
「そうじゃなくって違ったんです。この子、妹尾という子と図書委員の江岡って言うこの制服が」
「って事は他の学校から紛れ込んでいるって事?」
「いやその線はないやろな。他校の生徒が図書委員してるつうのも図書室の戸締りするつうのもおかしな話や。ちょうど制服の切り替え時期やったか、どちらかが転向生やったって考えるのが無難やな」
「だね」
「そういや、本に手紙みたいなの挟んでたちゅうてたやろ? その本の名前とか分からんか?」
「えっ? 手紙挟んだのってアキラって子の方だから関係ないんじゃ」
「いいから、思い出してみてや」
「う、うん」

 光輝に促されるまま、再度夢の記憶を思い出す。
 確か茶色い背表紙に金字の装飾、タイトルは筆記体で書かれていて……って、あれ、それって、今日図書室で借りた ―― そこまで考えて脇にどけた本にし視線を落とす。

「やっぱりこの本だっ! これです。この本です。」

 僕は部室についてすぐ脇に退けていた本を手に取り、爛さん達に差し出した。

「へぇ、この本が……」

 爛さんはその本を手に取り上下に振るが何かが落ちてくる雰囲気は無かった。

「ん〜、手紙らしい物は入って無いわね。やっぱり」
「ま、でも、今ヤオマの手にそれがあるのは偶然ではないやろ」
「あっ、やっぱり? 僕もそうかなぁってうすうす感じていたんだけど」
「で、どうしてヤオマがその本を持ってるかやけど……」
「あ、うん。実はかくかくしかじかで ―― 」
「なる。まるまるうまうまって訳ね」
「ほ〜、そんな事があったんかいな。って、どこのテーブルトークRPGやねんっ!!」
 どうやら、お約束は通じないらしい。

「まあ、要するにお節介な図書委員の本館栞に押し付けられたってことでしょ?」

 爛さんのその言葉に光輝だけでなく僕さえ驚いた。
 いや、だって言った僕自身、それで伝わるとは微塵も思ってなかった

「なに? 鳩が豆鉄砲喰らった様な顔して」
「えっ、だって……」

 何で伝わったのか思い浮かばない。

「簡単な話よ。有名人なの。その本館栞っていう図書委員」
「そ、そうだったんですか」

 な、なんだ、要するに前例があるから分かったって言うことらしい。

「うん。どれ位有名かと言うと、黎萌学園の七不思議のひとつに数えられているぐらいかな」
「七不思議ですか」
「そ、曰く『悠久の図書委員』 図書室に1人でいるとね? 本館栞って名乗る図書委員が現れて、本を一冊借りるのを薦めてくるの。でね。その本を最後まで読まないと……」
「読まないと?」

 僕は生まれて始めて遭遇したオカルト現象に思わず身を乗り出し、息を飲み込んだ。

「あの、そんな期待されても困るんだけど……」
「あっ、すいません。つい」
「まあ、絶対に後悔するっていうだけ」
「へっ? それだけですか?」
「うん、それだけ」

◆◇◆◇◆

 え、えと〜

「も、もしかして本館さんって幽霊?」

 なんか興ざめしてしまった雰囲気をどうにかしようと話を続ける。

「ちがうちがう。」

 そう笑って否定すると爛さんは、言葉を繋げた。

「どっちかと言うと、妖怪ね。物は何だかよく知らないんだけど図書室関係の付喪神(つくもがみ)なの」
「付喪神?」

 思わず聞き返してからはっとする。そういや、爛さんは説明魔だったっけ……

「そ、付喪神。もしかして知らない? 付喪神ってのは ―― 」
「ら、爛ねえやん、説明は後にして、まず八百万の話をきかへん? なんかヒントになるような会話あるかも知れへんし」

 爛さんが説明を始めようとした矢先に光輝が口を挟み話の軌道をくれた。

「むぅ、分かったわよ。じゃ、ヤオ。残念だけど説明は後でね?」

 爛さんは少し不満そうな顔をしつつも納得する。

「あっ、はい。で、図書室での話なんだけど……」

◆◇◆◇◆

「なるほど、中学校からの寄贈やな。とするとやな。ここらへん寄贈元の中学校名が書いてるはず……」

 光輝は背表紙を開き、何かを確認する。

「おし、黎稜中学やな」

 と、呟いたかと思うとどこからかノートパソコンを取り出し、何かを調べ始めた。

「おっしゃ、黎稜中学校のホームページがあったで。八百万、ちょいこの写真見てくれへんか? これ、さっき言うてた制服やと思うんやけど、どや?」
「あっ、ホントだ。間違いないよ。これ、図書委員の子が着てた制服だよ。」
「よっしゃ、後はこの制服へ切り替わった年を調べてっと。おっ、こりゃ運が良いわ。古い写真もあるやん」
「うん、白黒で分かりにくいけど多分間違いない。こっちはこの子が来ていたやつだ」
「おし、年代も分かった。場所も分かった。んじゃ、わいはちょっくら電話して『新谷』つう奴と『妹尾』つう奴がおらんかったか確認してくるさかい。八百万、あんさんはその本もう一度確かめとき。特に本館はんが言っとったページの所や。じゃ、頼むで」

 そう矢継ぎ早に言うと光輝はこの電波の入りが悪い部屋から出て行った。
 仕方なく僕も言われたとおり本を調べなおすことにする。
 すると、どうだろう。爛さんが何もないのを確かめた筈なのに、本館さんが言った場所にそれはあった。
 そう、夢の中でアキラが隠した便箋がそこに。

◆◇◆◇◆

 僕が手紙を見つけて数分後、光輝が戻ってきた。

「どや、あったやろ?」
「うん。確かにあったけど……。なんで? さっき爛さんが振った時には何もなかったのに……」
「摩擦や。本のページの間に紙切れとか挟むとそう簡単に落ちへんようになるねん。ほんまは1ページ毎に確認せえへんとあかんねんけど、ま、挟んでるページを教えてくれた本館はんに感謝やな」
「で、そっちの首尾はどうだったのよ?」

 光輝の説明を遮るように爛さんが口を挟む。

「『新谷』ちゅう男子と『妹尾』ちゅう女子は確かにおったで」
「ほんとに?!」
「ほんまや。つか嘘ついてどないすんねん」
「……居たけど『フミ』でも『アキラ』でもなかったとか言わないよね?」
「いわへん、いわへん。愛称という事を考慮に入れると『アキラ』と『フミ』には間違いないやろな」
「『には』? なんか回りくどい言い方ね?」
「さすが、ねえやん。気づいてもうたか。ぶっちゃけると八百万らが想像しているやろう『妹尾アキラ』・『新谷フミ』つう生徒はおらへんかった」
「えっ?」
「おったのは『新谷文一(にいやふみと)』つう男子と『妹尾章(せのおあきら)』つう女子の二人。それも黎稜中学在学中、二人での下校時に事故に遭い一方は死亡、もう一方も入院を余儀なくされ、その数ヵ月後に退院、現在はこの黎萌学園にて教師を勤めておるつう話や。そこにこの本、つうか手紙やな。この手紙がこの学校に来たつうのは、偶然にしたら出来すぎやな。あっ、ちなみに黎稜のはバスケ部は男子バスケ部しかないらしいで?」
「どうせ、どっかのお節介な図書委員が手引きしたんでしょ?」
「かも知れへん。でもま、これで複線は出尽くしたようやし、解決編にいこか」

 そう言って部室から出て行こうとする光輝を、爛さんが引き止める。

「ねぇ、あたし、もう少し自分で考えて見たいんだけど……」

 光輝はその要求に少し考えを巡らすと、こう返す。

「まあ、わいは八百万があと一日その姿のままでも良いつうんなら別にいいんやけど」

 爛さんと光輝が僕の方を見る。

「えっと、僕は別に……」
「よし、決定ね。解決編は明日の放課後。それまでに各自答えを考えて置くこと」
「いや、ねえやん……、答えちゅうても何をどう推理するのかさえ怪しいもんやで?」



《後書きというかなんちゅうか》

 はい、天爛です。3作目の前半です。
 今回はミステリー風を狙ってみました。
 何処がミステリーやねんという方、生暖かい突っ込みを待っていますw




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