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 平日の放課後、フシケンの部室には爛と光輝の二人しかいなかった。

「あれ? ヤオは?」
「今日はバイトって言ってたで」
「あぁ、なる。……そう言えば、子守りだっけ。ヤオのバイト」
「そうやけど? どうかしたん?」
「別にたいした事じゃないけど、どんな子の相手してるのか、ちょっと気になっただけ」
「ヤオマ曰く、本当の兄妹の様に慕ってくれる小学低学年の女の子らしいで」
「へぇ ―― ヤオに襲われなきゃ良いけどその子」
「ほんまや」

 爛と光輝は顔を見合わせてくすりと笑う。

「じゃあ。暇つぶしにその子の事でも占ってみようかな」



ヤオヨロヅ物語


]V:死神(Death)
第二話 〜13th:幽霊少女ファントム・ガール

作:天爛
絵:ムクゲさん(URL



]V:死神(Death)

正位置:急激な変化・停止状態・病気や事故の暗示・愛の終わり・損失
逆位置:方針を変える・立ち直る・九死に一生を得る・よみがえる愛・愛情が取り戻せる


 僕、神宿八百万は週二日ほど部活を休んで、子守りのバイトをしている。と言っても正確にはバイトとは言えない物。
 きっかけはこちらに越してきた次の日に散策がてらぶらぶらしていた時。日が沈みかけてるにも拘らず、ひとり公園で遊んでいた天生鈴音(あまうりんね)ちゃん ―― リンちゃんにあったことがそうだった。
 僕はこんな時間に女の子の一人遊びとは危険だなぁ、と思い、声をかけると、そのまま母親が迎えに来るまで遊び相手になってあげたんだ。
 もちろん、リンちゃんのお母さんは最初僕の事を不審者と思ったらしい。
 けど、リンちゃんが危ない目に会わないように見てあげていたのだと言ったら、納得してくれた。……まあ、リンちゃんが僕に懐いてくれていたのもあるだろうけど。
 で、家に帰っても食べる物がない事に気づいた僕が、リンちゃんのお母さんに店の場所を尋ねる結果、疑ったお詫びにとリンちゃんの家でご馳走になる事になった。
 そして、リンちゃん家での食事中、この春から黎萌学園に通う下宿生だと名乗ると、バイトとしてリンちゃんの子守りをしないかと誘われたんだ。
 さすがにお金は貰えないと言うことで断ったんだけど、結局はお金の代わりに子守りをした日の夕食をご馳走になるという条件で引き受ける事になった。

うん♪ リン、とっても楽しみなの。とっても♪ 「 ―― ちゃん、リンのお話聞いてる? お兄ちゃん?」
「あっ、うん。大丈夫ちゃんと聞いてるよ。今度の日曜日、遊園地に行くんだよね?」
「うん♪ リン、とっても楽しみなの。とっても♪」
「良かったね。楽しんでおいで。」
「ふえ、お兄ちゃんは来ないの? お兄ちゃんは」
「折角の家族水入らず、邪魔になりたくないからね」
「かぞくみずいらず? よく分からないけど、お兄ちゃんは邪魔じゃないよ? よく分からないけど」
「あはは、ありがと。でも今回は遠慮しとくよ。代わりにお母さんたちと楽しんでおいで。で、後でどんな事があったか聞かせてほしいな」
「分かった♪ いっぱい楽しんで来て、お兄ちゃんにお話してあげるね。いっぱい♪」
「うん」

◆◇◆◇◆

 その頃、部室。

「む〜」
「どうしたんや、ねえやん。頭抱えたりして」
「ほら、さっき言ってたヤオの子守りの相手。気になったから占ってみたのよ」
「なんや、よくない結果でも出たんかいな?」

 光輝は立ち上がり、爛の傍に寄ると机の上に並んだタロットをみた。

「うわっ、これは ―― 」
「でしょ? 『運命の輪』の逆位置、『塔』の逆位置、『戦車』の逆位置、そして『死神』。逃れられない不運の予感、交通事故よる死 ―― ヤオには言わないほうがいいかも知れないわね……タロットもそういってるし」

 そう言ってタロットカードの山から無作為に引いた一枚を差し出す。

「やな……」

 『隠者』、隠れた物・情報を示すカードであった。

◆◇◆◇◆

 平凡だった日常に変化が起きたのはリンちゃんと遊んだ数日後、その週の土曜の朝の事だった。
 いつもの様に寝ぼけ眼を擦りながらも僕は布団から抜け出し、大きな欠伸をする。

「ふわぁ〜」

 どこかで聞いた事があるようなかわいらしい声が出た気がするけど、起きたばかりだからと寝惚けた頭で判断した。
 目尻に沸いた涙をパジャマの袖で拭き、洗面所に向かう。が、

  ―― むぎゅ

 誰かにパジャマの裾を踏まれ、すっころんでしまった。

「痛ひ……」

 その痛さで目が覚めた僕は、やっと体の異変に気づいた。
 まずは声。本来の僕の声異なりとなり、声変わり前の子供のような ―― それもどこかで聞いた事がある声に変わっていた。
 次に視線の高さ。いま僕は床の上にしゃがみこんでいる訳だけど、それを踏まえた上でいつも以上に低くなっている。立ってみても変わらない。いや、それ以上に差がはっきりした。
 最後に服。寝る前にはちょっと大きめ程度だったパジャマが、今は明らかにダブダブになっている。でも服の柄は変わっていないから、パジャマが違う物に変わった訳ではないらしい。
 ……結論、僕はなぜだか縮んでしまったらしい。

◆◇◆◇◆

 余りにも突拍子なさ過ぎて逆に冷静になる。後で爛さんに電話して聞いてみよう。
 我らがフシケン会長で魔術師でもある爛さんなら、なんか分かるかも知れない。
 というか、もしかしたら爛さんが犯人かも。普段、光輝にしてる事を考えたら十分に考えられるし。

◆◇◆◇◆

 ―― なんでリンちゃん?!  取り敢えず、どんな感じになっているのか洗面所にある鏡で確認しよう。と思ったけど届かなかった……。
 仕方なく勉強机から椅子を持ってきて、再挑戦。椅子の上に立ち、覗き込んだ鏡の中には子供時代の僕。ではなく ――

「 ―― なんでリンちゃん?!」

 予想を上回った状況に気づいた僕は、迷わず携帯を置いてあるところまで駆け出し、メモリから爛さんの電話番号を呼び出した。
  ―― TRUUUUU、TRUUUUU、TRUUUUU、ガチャ。

「はい、こちら天津」
「ら、爛さん?! ぼ、僕、目が覚めたら縮んでて、鏡見たらリンちゃんで ―― 」
「あぁ〜、話はゼロ ―― あんたの守護霊から聞いてるから、取り合えず落ち着きなさい。で、今から着る物持って行ってあげるから。いい? あたしが着くまでに落ち着いておくのよ? 分かったわね?」
「は、はい」

  ―― ガチャ。

 爛さんとの電話を終えた僕は、気持ちを落ち着かせる為深呼吸する事にした。 ス〜、ハ〜、ス〜、ハ〜

「どう落ち着いた?」
「あっ、はい。大分 ―― って爛さん、いつの間に?!」
「ついさっき。めんどいから《位相結合(ゲートリンク)》使ってきたの」
「あ、確かそれって二つの出入口を直接繋ぐという某どこでもドアみたいな魔法の事ですよね」
「そうよ。で、まず着替えよ、着替え。いつまでも大きなお友達が喜びそうな格好でいないでさっさと着替えなさい」

 そう言って手に持っていた紙袋を僕の方に差し出してくれる。

「あたしの服だけど今の体形なら十分着れるでしょ」
「あっ、ほんとに大丈夫そうですね。リンちゃん、確か小学生低学年なのに。」
「一言多い! あたしは好きでこうなった訳じゃないの!」
「ご、ごめんなさい。じゃ、じゃあ、ちょっと向こうで着替えてきますね」
「一人で着れる? 何なら手伝おうか?」
「謹んで遠慮しときます」
「分かったわ、こっちで待ってる。……でも、あまり変な事しないようにね」
「しませんよ」

 そう言って笑い返すと、僕は紙袋から出した制服を手に洗面所の方に向かった。

「 ―― いくら精神安定呪文をかけているからって、落ち着き過ぎな気がする……」

 爛さんのその呟きは僕の耳に入る事はなかったのだけれども……

◆◇◆◇◆

 僕が着替えて戻ってくると、押入れを開けその中を覗き込もうとしている爛さんが目に入った。

「お待たせ ―― って、爛さん!? 勝手に他人の押入れを開けないでくださいっ!!」
「あっ、ごめんごめん。男の癖に綺麗な部屋だな。って、呟いたらゼロ ―― あんたの守護霊が面白い物あるって言うから、ついね」

 そう言いつつも、押入れを覗き込むのを止めない。

「あ、あの、それで僕はどうしてこんな姿?」

 そう切り出すと爛さんは押入れから顔を出し、逆にこう問いかけてくる。

「ヤオ、あんた。三種の神器って知ってる?」

 三種の神器? 三種の神器って言うと確か ――

「あっ、テレビ・冷蔵庫・洗濯機とかそれに類推するボケは却下だから」

 うっ。じゃ、じゃあ ――

「御三家、三人娘、三大義務ってのも、もちろん却下」

 うぐっ。

「……知らないようね」
「すみません」
「まあ、いいわ。でも、知らないなら話が長くなりそうだし、続きは部室でしましょ。光輝も呼んでいるし」
「あっ、はい、分かりました」

 一段落置き、玄関まで行くと、爛さんが呪文を唱えるのに任す。

「《位相結合(ゲートリンク)》っと。よし繋がったわ」

 僕がドアを開くと、そこはいつも部室に使っている部屋だった。

「 ―― ところであの人形、結構あったけど……どれ位かかったの?」

 やっぱり、見られていたんだ……。クレーンゲームの景品、それもかわいい系の物ばかりなのを。

「確か23個あるから……2300円です」
「ふ〜ん。って、ちょっ。それって百発百中ってこと?!」

◆◇◆◇◆

 その後、部室で光輝が来る間に三種の神器について話を聞いた。
 なんでも、三種の神器と言うのは日本神話に伝わる三つの神の武具 ―― 『天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)』『八咫鏡(やたのかがみ)』『八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)』の事を指すらしい。
 まあ爛さん曰く、神の武具と言うのは通説で本当の所は読んで字の如く『神の器』と言う意味らしいけど。
 ひとつ、収めたる魂の力を自由に使う事が出来る“神の力の器”『天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)』。
 ふたつ、収めたる魂の形を映し出す“神の姿の器”『八咫鏡(やたのかがみ)』。
 そして、滅した魂さえも呼び戻し、その内に収める“神の魂の器”『八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)』。
 その三つの霊質(霊的な性質)を総称して『三種の神器』というらしい。
 まあ、それだけなら何のことはないんだけど……。な、なんとその内のひとつ『八咫鏡(やたのかがみ)』っていうのが僕の事らしい。

「えと、話が大きくなりすぎてよく分からないんですけど?」
「要するに、超強力な変異霊媒体質やな」

 変異霊媒体質ってのは確か、霊に取り憑かれた時にその影響が体に現われるていう ―― あれ?
 僕が変異霊媒体質だというのはいいとして、その僕がリンちゃんになっている ―― つまり、リンちゃんに取り憑かれているって事は ――

「リンちゃんが死んだって事?!」
「残念ながらそうみたいね。……とりあえず、死んだ経緯とヤオに憑いた理由は本人に聞きましょ」

◆◇◆◇◆

「って、あんたは霊の声が聞こえないんだったわね。ちょっと待ってて、いま聞こえるようにしたけるから」

 そう言った後、爛さんは《汝、魂の叫びを聞け(アストラル・ヒアード)》と呟くといつもの様に指をパチンと鳴らした。

“ ―― ちゃん、聞こえる? お兄ちゃん?”

 その瞬間、頭の中で声がした。

「……リン、ちゃん?」

 僕はその声に問いかける。

“うん、リンはリンだよ。リンは”
「……リンちゃんは本当に死んでしまったの?」

 どうしてもその事が信じられなかった僕は意を決してリンちゃんに尋ねる。
 でも、僕が望んでいた否定の言葉は返ってこなかった。

“……死んだよ。リンは昨日の夜、死んだよ。リンね、いつもの公園で遊んでいたの。いつもの公園で”
「うん」

 いつもリンちゃんが遊んでいる公園。ブランコなど一般的な遊具があり、日が沈みきる前ならいつも子供たちで賑わっているリンちゃんのお気に入りの公園。

“でね、道の向こう側からお母さんに呼ばれたから、リン、お母さんの方へ走って行ったの。お母さんに呼ばれたから”
「うん」

 公園のすぐ前には道路がある。挟んで向こう側に歩道へは、信号付きの横断歩道がある。その時間帯、子供たちで賑わっている事を知っている周囲の住民は、その道を通る時は極力安全運転を心かけていた。

“でも、リンがちゃんと周りを見てなかったから車が来て……、周りを見てなかったから……”

 リンちゃんはそういうけど、リンちゃんが悪いんじゃないのだと僕は思う。
 だってリンちゃんはいつもその信号を守っていた。歩行者用信号の青が点滅したのを見た僕が走って渡ろうとするのを止めるぐらいだ。それは例えどんなに急いでいた時も。
 だから、そのリンちゃんが信号を無視して渡ろうとしたとは考えられない。たぶん車の方が信号無視したんだろう。

「で、あんたはヤオにどうして欲しいの? その車を探す?」
“ううん。お母さんがね、泣いてるの。お母さんが。だから、リン言いたいの、ごめんなさいって、死んじゃってごめんなさいって。でも、リンの声、お母さんに届かないから言えない。ごめんなさいって”

 僕の頬を、いや、リンちゃんの頬を、水滴が一粒流れた。

◆◇◆◇◆

 それから数分後、僕たちはリンちゃんの家の前に立っていた。
 僕は爛さんの幻装呪文によって、元の自分の姿に変装している。何でも、変身呪文を使ったところで、いまの(リンちゃんの)姿で上書きされてしまって意味がないらしい。だから幻を纏う幻装呪文を使ったそうだ。
 チャイムを鳴らす。……誰も出ない。リンちゃんが死んですぐだから、どこかに行っているとは思えない。試しにドアノブを回すと鍵が開いていた。

「入ってもいい?」

 一応、リンちゃんに確認を取る。

“うん”

 中に入ると家の奥、台所の方から、リンちゃんのお母さんの泣き声が聞こえた。
 僕はそちらに向かうと、そこに泣き崩れていた女性に声をかける。

「おばさん……」

 ピクッと反応し、こちらを振り向く。そして、僕の姿に気づくとボソッと言った。

「あっ……、ヤオマ君……、気づかなくてごめんね……。リンに会いにきたのよね? ごめんね、リンは、リンはね……」

 そこまで言って、言いよどんでしまう。さすがに自分の口からリンちゃんが死んだ事を言うのはつらいんだ。だから、おばさんは嘘をついた。

「リンは今、寝ているの。お昼寝中。もうぐっすり寝ちゃってて、なかなか起きないと思うから今日は帰って ―― 」
「“ちがうよ”」

 声が出た。僕の口から出たそれは、僕の声ではなく、紛れもないリンちゃんの声。

「リン?」

 おばさんは目を丸くして僕を見つめる。その瞳に写っていた僕の姿がふいっと、リンちゃんの姿に変わった。物陰から見ているはずの爛さんが幻装呪文をといたのだと気づいた。

「“お母さん、ちがうよ”」

 僕の口がリンちゃんの意思をおばさんに伝える。僕がリンちゃんの言葉を聞いておばさんに伝えているのか、リンちゃんが僕の口を使っておばさんに言っているのかは分からない。でも、それはどちらでもいい、どちらでも変わらないことのように思えた。

「“認めて、お母さん。認めて。死んだの。リンは死んだの”」
「いやっ! リンはここにいる。ここにいるじゃない!!」

 そう言っておばさんは僕 ―― リンちゃんの姿の僕にしがみ付く。

「“だめなの、お母さん。だめなの。リンは行かなきゃいけないの。リンは。だから、ここにはいれないの。ここには”」
「なんで、なんでいれないの? たった二人の母娘じゃない。それともお母さんの事嫌い? 嫌いになったの?」
「“ううん、大好きだよ。お母さん、大好きだよ。大好きだから、お母さんを悲しませたくない。大好きだから。お母さんは? お母さんはリンの事好き?”」
「大好き、大好きよ!」
「“なら認めて、死んだって認めて。そして、前を見て。リンが死んだ事を認めて前を見て。じゃないとつらいもん。リンが死んだって信じようとせず苦しんでるお母さんを見るの、リン、つらいもん、だから最後のわがまま。最後の……”」
「そう、そうよね。大好きなリンにつらい思いさせたら駄目だものね。うん、お母さんがんばる。リンがつらい思いしないようにがんばるから」
「“お母さん、リンね、最後までわがままな子だったけど来生もお母さんの事を『お母さん』って呼びたい。許してくれる? お母さん?”」
「うん……」
「“ありがとう、お母さん。でも、ごめんね。リン……、もう行かなきゃ……。お母さん、7年間本当にありがとう。リン、幸せだったよ。お母さんの子供で幸せだったよ”」

 そうリンちゃんが言うと同時に、僕の中から何かがすっと抜け出すのを感じた。
 そっか、リンちゃんはもう行くんだね、さよなら。そう心の中で呟く。
 そして服がきつくなって来たのに気づき ―― このまま元に戻るのってやばいんじゃ……

◆◇◆◇◆

「けど、あの子。私たちには一言もなしに行っちゃったわね」

 あの後、爛さんの魔法で事なきを得た僕たちは、部室に戻り一息ついていた。

「ですね。ちょっと寂しいです……。」

 僕は手にしたカップに口を付け、喉を潤してから、言葉を続ける。

「でも、リンちゃん、天国いけるといいですね」
「そうね……」

 そう呟き、爛さんもカップに口を付ける。それを見ていた光輝がボソッと呟いた。

「なぁ、ねえやん?」
「なに?」
「今回、わいはなにしに出て来たんやろ?」

 あっ……そう言えば

「ま、まあ、そんな日もあるわよ。うん」

 僕はその二人の会話を聞きつつ、窓の外の青空を見上げた。


]V:死神(Death)※逆位置
〜R‐13th:死神天使ヴァルキュリエ



 休みを挟んで月曜日。放課後、部室にやってきた僕が最初に聞いたのは、爛さんの一言だった。

「ヤオ、あんた。あの子がちゃんと天国いけたか気になるでしょ?」
「そりゃあ、気になりますけど……」
「じゃあ、決定。今から死神に聞いて見ましょ」
「し、死神ですか?!」
「大丈夫、もう何度も呼び出した事あるし、ちょっとドジな所を除けば害のない気さくな奴よ」

 そう言って、僕の返事も聞かず準備を始めだした。
 まず、書庫から爛さんが持つにはやや大きめの本を持ってきて部屋の中心辺りに立った。
 そして、「手で書くの面倒だから」そう一言言い訳(?)をし、呪文を唱え始める。
 
   汝、万物の書、法の書よ 我、求める所を欲する者なり
   汝、我が求めに答え 我に法を示せ

 爛さんが呪文をと、爛さんが手にしていた光を発しながら本が浮かび、風もないのにページがパラパラと捲れていく。
 にも拘らず、ページがなくなりそうな位捲れても一行にページはなくなりそうになかった。

   我求むは 死出の旅路の案内人 其を呼び出す一度きりの魔法陣
   WRITE‐ON!!

 パチン。爛さんが指を弾くと、無限に捲れるのかと思われたページがある一箇所で止まり、そこから一筋の光が延び、そのまま放物線を描き、爛さんの手前の床に降りて行った。その光から更に光が分かれて、何やら図形らしき物を描いていく。
 そして、しばらくの後、魔法陣が完成したからか床に描かれた図形を残し、本から延びていた光が消える。と、同時にドサリと音がした。宙に浮いていたあの本が、万有引力の法則に従い任せ床へ落ちた音だった。
 それを拾い、机に置くと描かれた魔法陣に向き直り、再度呪文を唱えた。

「《来たれ、死神‐ヘイル(サモナ・ヘル ヘイル)》!」

 どこからともなく煙がでて魔法陣の上に集まる。そして、不意にポンという音がするとその煙は僕と同年代ぐらいの人型の何かに変化して ―― げし、パタン、ふぎゅ。

「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン♪ 元・魂管理組織『閻魔』日本第十六支社 支社長代理、死神ヘイルちゃんただ今とうじょ〜♪」
「やほ、ヘイル。今日も賑やかそうで何よりだわ」
「なぁんだ、また爛ちゃんかぁ。たまにはいい男に呼ばれたいなぁ。と言うのは置いといて、爛ちゃんの方もいつもどおりち ―― ってありゃりゃ? 爛ちゃんいつもより縮んでない?」
「縮んでないっ! つか、あんたの足元を見なさい、足元を!!」
「ほへ?」

 彼女は爛さんに言われるまま足元を見ると、固まってしまった。あ、あの〜、固まられても困るんだけど……
 と、状況を説明します。彼女の足元と言うか足の下には、彼女が現われた時に勢いよくニーを(それもダブルで)食らいそのまま倒れた僕がいたりなんかするんです。はい。

「あっ。ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

 僕に乗ったまま謝り続ける彼女。いや、謝るのはいいからとりあえず退いて……

「あのさ、そろそろ降りてあげないとあんたの重さで潰れるわよ? それ」
「へ、ヘイルちゃんはそんな重くないもん」

 しくしく。そう口でいってやっと僕の上から彼女が退いてくれた。つか、爛さんも『それ』って、……酷いです。
 やっと人一人分の余分な重さから開放された僕は立ち上がり制服についた埃を払うと、爛さんに尋ねる。

「え〜と、この人がさっき言っていた?」
「そ。こいつがさっき言った死神。で、ヘイル。こいつはヤオマ。えと……、あたしの不肖の弟子ってトコかしら」

 入学式のあの日、爛さんに魔法使いにならないかと誘われてから、僕は魔法についていろいろ教わった。僕は単に興味本位からだけだったんだけど、爛さんの中では僕が魔法使いになるのは確定で、いつの間にか『不肖の弟子』にされてしまってるらしい。

「爛ちゃんのお弟子さん? 爛ちゃん、ちっちゃいクセにやるぅ」

 だから、ぼくは弟子になったつもりはないんだけど?

「小さいのは関係ないっ! 小さいのはっ!!」
「ん、じゃあ改めまして ―― 」

 彼女は途中で言葉を止めると、人差し指を口元に当てて少し考えたのち、僕にこう尋ねた。

「登場から、やり直した方がいい?」

 僕は苦笑いを浮かべ、一言 ――

「え、遠慮します。ヘイルさん」

 さすがにもうニーを喰らいたくはないし。

「むぅ、ざんねん〜。」
「はいはい、残念がるのは後にして、さっきにこちらの用件いい?」
「ぶ〜ぶ〜。あっ、ヘイルちゃんの事はヘイルちゃんって呼んでね〜」

 と、僕に一言残すと爛さんに向き直るヘイルじゃなくってヘイルちゃん。

「で、用件っていつもの? なら、まだ見つかってないよ?」

 いつもの? いつものって一体……。

「やっぱりかぁ。残念だけどしょうがないわね」

 むぅ、やっぱりまだ……でも一体何処に。などと爛さんは呟くのが聞こえた。
 何の話か僕には皆目検討がつかない。だから、内容が気になり、僕はヘイルちゃんに尋ねる。

「あの、一体何の話を?」
「んと、ね。実は爛ちゃんは ―― 」

 その問いにヘイルちゃんが答えてくれようとしたけど、それをジャマするように爛さんが口を開いた。

「そうそう今日は別件なの。だから、その話は今度ね」
「ふぇ? そうなのぉ? じゃあ、今日の用件ってなにぃ?」
「どっちかというとこいつの用事なんだけどね」

 そう言って僕の方を指を刺す爛さん。

「一昨日辺りにそちらに女の子が1人行ったと思うんだけど、その子、天生鈴音が天国行けたか確認をしたいのよ?」
「りょ〜か〜い♪ それくらいヘイルちゃんにおっまかせ〜♪ って言いたんだけどざんね〜ん。ヘイルちゃん、もう支社長代理さんじゃないから調べる権限なかったりするのよね〜」

 そうのん気に答えるヘイルちゃん。えと召喚した意味なかったとか? もしかして、踏まれ損? 僕の汗が一筋流れた。

「えと、つまりあんたは用なし?」
「ヘ、ヘイルちゃんは洋ナシじゃないもん!」
「確かに洋ナシではないですね……」
「や〜ん、ヤオヤオやっぱりわかってるぅ♪」

 『洋ナシ』ではなく『用なし』だと言う意味と、ヘイルちゃんは気付いてないらしい。
 まあ、どっちでもいいけど。

「あの、そんな事よりもリンちゃんのことを……」
「むぅ〜、ヤオヤオも連れないぃ」
「一発屋の宿命よ。諦めなさい」
「い、一発屋ってひど〜い」
「だってホントでしょ。うう、いいもんいいもん」
 床にしゃがみ込み、『の』の字を書き始める。
「だから、それよりも ―― 」
「むぅ、分かってるよ〜。新しい所長を紹介したらいいでしょ。ブ〜ブ〜」

 不満を漏らしながらも、その空中から出した携帯電話でどこかに電話を始める。

「しょちょ〜、いま大丈夫ですかぁ〜? 大丈夫? よかったぁ〜。あのねぇ、所長にあいたいって人がいるんですけど、いまいいですかぁ? りょ〜か〜い、じゃあまってますぅ。ガチャ」

 最後の『ガチャ』まできっちり言い切った(?)ヘイルちゃんは、携帯を仕舞った。

「え〜と、すぐ来るっていってたよ?」
「ありがと。じゃあ、あんた ―― 」

 用なしね。そう爛さんが言おうとしたその時、部屋の中が薄暗くなった。ううん、正確には部屋の中の光が中央に集まったと言うべきかも。
 部屋の中央に集まった光は、ヘイルちゃんが現れた煙と同じように次第に人型に変わっていった。
 でも、その人型はヘイルちゃんの時よりもかなり小さく、爛さんぐらいの人型だった。
リンはリンネだよ。魂管理組織『閻魔』日本第十六支社 支社長 転生の天使リンネだよ。  暫くののち、とは言っても実際は数秒も立っていないけど、人型になった光が弾け、そこから1人の少女が現れた。って、あ、あれ? この子、もしかして ――

「リンちゃん?」

 僕の呟きが、聞こえなかったのか弾けた光から少女はぴょこんと降り立ち、頭を下げ挨拶をする。

「これからもよろしく、お兄ちゃん。リンはリンネだよ。魂管理組織『閻魔』日本第十六支社 支社長 転生の天使リンネだよ。これからもよろしくね」

 『輪廻転生の天使リンネ』そうなのったその少女は紛れもなく、あのリンちゃんだった。

◆◇◆◇◆

 僕、爛さん、光輝、リンちゃん、そしておまけ1人(ひ、ひどい。BY ヘイル)は向かい合うようにソファーに腰掛けて、光輝が入れた紅茶で喉を潤していた。

「えと、つまりこういうことね」

 爛さんがティーカップを机に置き、口を開く。

「結局ヘイルは、使い捨てキャラだったと」



《後書きというかなんちゅうか》

 はい、天爛です。2作目です。
 今回は前半シリアス、後半コメディを狙ってみました(笑

《以下、座談会というか補足?》

爛「ところで、『転生の天使』って本当に転生させる訳じゃないんでしょ?」
リン「だよ♪ リンは転生を促す天使だよ。魂を導くの。この世に未練を残した魂を導くの」
ヘイル「ヘイルちゃんだってそうだよぉ〜。成仏しない子を冥界へ連れてくだけだもん♪」
爛「だから、あんたは使い捨てだから別に説明はいいって」
ヘイル「えぇ〜、ヘイルちゃんも出たいぃ」
爛「と、行ってるけど、どうよ。」
 いや、毎回こんなハイなキャラ出すの面倒だから却下したい所だか……
ヘイル「えぇ〜」
リン「ヘイルお姉ちゃん」
ヘイル「しょ、しょちょ〜? な、なんですか、もしかして出番変わってくr ―― 」
リン「リンの留守の間、所長代理よろしくね? ヘイルお姉ちゃん」
ヘイル「そ、そんなぁ〜〜〜〜〜」
 まあ、なんだ。要望が多ければ再登場を考えなくはないが?
ヘイル「ほ、ほんと〜?! ど、読者のみなさん、ヘイルちゃんをよろしくプリ〜ズ!!」



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