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華代ちゃんシリーズ番外編
『小夜神楽』・試作
作:天爛


※「華代ちゃん」シリーズの詳細については、以下の公式ページを参照して下さい。
http://www7.plala.or.jp/mashiroyou/kayo_chan00.html
※「華代ちゃんシリーズ・番外編」の詳細については、以下の公式ページを参照して下さい。
http://www7.plala.or.jp/mashiroyou/kayo_chan02.htm



 是ぃより語るは、げに不思議な話でございます。
 古今東西、不思議なことは数あれど、真に起こりし一つでございます。
 春夢(しゅんむ)のようなことなれど、夢々疑うことなかれ。
 疑う者は寄りて聞け、信ずる者も寄りて聞け。
 さあ、ちこうにちこうに。
 興味ありし者、皆ちこう寄ったか
 では皆様 これより一時ばかりのお付き合いを

 其は播磨国、とある道場での物語でこざいます。
 世は幕末。世間では、やれ黒船だ、やれ開国だと騒いでいた頃でこざい。
 時は酉の刻三つほど、道場に二つの人影あり。
 片や讃鬼秀禅成将(さんきしゅうぜんなりまさ)と申し、彼の道場の主にして播磨十三剣の一人に数えられし剛の者なり。
 対するは、讃鬼邑禅将翔(さんきゆうぜんまさかけ)と申す者。先の成将の嫡子にして次期十三剣の筆頭にと噂されし者なり。

「ならん!!」
 まず一声吠えしは成将でござい。一里離れし赤子を起こす。とは言い過ぎなれど、げに大きな声でごさいました。
「しかし、父上。世間では開国近しと民も騒ぎだしてございます。まさに今が好機、天下に讃鬼奏剣流ありと知らしめるのは今しかございませぬ。」
 返す言葉は将翔のもの。
「ならん、ならん、罷りならん。お主はいずれはこの道場を継ぎ播磨の国を守っていかねば為らぬ身、出国など断じてゆるさん。」
「道場を任すならば将嗣(まさつぎ)によいでごさろう。それにこの時勢、やれ家を守るためだ、やれ国を守るためだと、拙者には面妖だとしか思えぬでござる。今しばらくすれば必ず国は開かれ異国の優れた武芸が入って来る。その時になって門戸を開いたのであれば遅うごさいます。」
「何を戯言を。この時勢だからこそ、おぬしには讃鬼家しいては播磨国を守って貰わねばならぬと言うに。」
「父上の考えは古うございます。」
 近代でも稀に見る父子の確執というものでございましょうか。家を守ろうと父の思い、家を栄えさせようとする子の思い。共に願う先は家の為、げに悲しき行き違いでございましょう。
「ええい、聞く耳まま為らん。これよりワシは書斎にて書物を嗜むことにする。将翔、お主はいましばらくこの場で頭を冷やしておれ。」
 斯く言い放ち成将は道場を出ていったのでございます。
一人道場に残された将翔は思い悩むのでございます。
 父の事、家の事、国の事、そして剣の事。
 父のいうことも一理あり。そう思えしも、やはり焦燥感といいましょうか、このままでは駄目だという思い、拭えるものではございません。

「拙者はどうすればよいのだ……。」
 時は戌の刻一つほどとなりしも、将翔は未だ思い悩んでいたのでございます。
 そのときでございましょうか、将翔に声を掛ける者が現れたのでございます。
「お兄ちゃん、悩み事ですか?」
 不意に声を掛けられた将翔は声のした方を振り返り見たのでございます。
 そこにいたのは一人の童、年の功にして九つほど、一枚の白い布でできた服を纏う、げに可愛らしい少女でございました。
「おぬしは一体?足音どころか気配もしなかったでござるが。」
 そう問うた将翔に対し少女は一枚の札を差し出したのでございます。
「わたしがお兄ちゃんの悩みを解決してあげる。」
 そういう少女はなんとも不思議な雰囲気を纏っていたのでございます。
「おぬしには何やら不思議なものを感じる。もしやとは思うが、貴殿はもしや天女様でござるか?」
「天女?ちがうよ、わたしはセールスレディーをしてるの。」
「”せえるすれでい”とな?よく分からぬが・・・、よければ拙者の悩み聞いて貰えぬだろうか。」
「うん♪」
 斯くして将翔はその不思議な少女に事の次第を話したのでございます。
 新しく来る時代に讃鬼奏剣流を知らしめたい事。
 そのためには国を出なければ為らぬ事。父にそれを認めて貰えぬ事。
 黙っていなくなったのでは頑固な父は、誰にも跡を継がせず讃鬼家は滅亡してしまうかも知れないという事。
 そして、自分がいなくなったのちは弟である将嗣が道場を継ぐのが相応しい事を。
「わかった。今からそのお父さんの所行ってみて。きっと悩み解決するから。」
「ほ、ほんとでござるか!?」
「任せといてよ。」
「ありがとうでござる、天女様!!」
 そう言って、将翔は父のいる書斎の方へ駆け出したのでございます。
「あのぅ、わたしセールスレディーなんだけど・・・。」

 さて、ところ変わって成将の書斎でござい。
 成将が将翔の言ってた事を振り払うように書物を嗜んでおると、襖の向こうから将翔の声が聞こえたのでございます。
「父上、いま一度お話があります。中に入ってよろしいでござるか?」
「もう諦めたか?それとも説得しに来たか?まあ、良い。ワシもそろそろ頭がさめて来たところだ。入って来い。腹を割って話し合おうぞ。」
 成将も思うところがあったのでございましょう。ふと見ると、手にした書物も昨日読み終えた個所より1頁ほどしか読み進んでない様でございました。
「ありがたく存じます。では失礼。」
 将翔が父の書斎に足を踏み入れ、成将に向かい座り語り出したのでございます。
「父上。拙者は先程天女様に合い申した。」
「ほう。それで?」
「先程のことを天女様にご相談したところ父上に会えば解決するとお告げを頂いたでござる。」
「ほう。では、なにが起こると言うのだ?」
「そ、それは・・・。うっ。」
 そのときでございます。将翔が目頭を押さえたかと思うと、髪が伸び始め、胸は膨らみ、体は丸みを帯びて小さくなり、あれよあれよという間に見紛うばかりの美少女が成将の前に現れたのでございます。

「い、いまの眩暈は一体・・・。」
 将翔の声も普段より高くうら若き乙女のそれとなっていたのですが驚きのあまり気付いていなかった様でございます。
「一切この目で見届けたが、敢えておぬしに確認したき事がある。」
 その様子を見ていた成将が声を掛けたのでございます。
「はい、何でございましょう、父上。」
 将翔もいきなり視線が低くなった事に戸惑いつつも声を返したのでこざいます。
「おぬし、本当に将翔か?わしには女子になったようにした見えんのだが。」
「なにをおっしゃってるでござるか!この様に何処をどう見たところで拙者は讃鬼邑禅将翔に違いは・・・?」
 将翔はそこまで言ったところで気付いたのでございます。
 自分の髪が知らぬ間に伸びている事に、そして胸が小ぶりながら膨らんでいた事に。
 将翔は恐る恐る手を下半身に持って行き・・・、そして気付いたのでございます。
「な、ないでござる・・・。」
 己が男の象徴がなくなっている事に。
「り、璃胡(りこ)! お璃胡、ちょっと手鏡をもって参れ!!」
 呆然としている将翔の事はひとまず置きて、成将は妻・璃胡を呼んだのでございます。
「はいはい、ただ今。」
 そう言いつつ家の奥より女が手鏡を手にして書斎にやってきたのでございます。この女こそ成将の妻にして将翔らの母、璃胡でございます。
「いま参りました。あなた、手鏡は何に様にお入用で?」
「将翔、いやこの娘に自分の顔を見せてやってくれ。」
「分かりました。されどこの娘どうなさったのです?まさか・・・」
 璃胡はそこで言いよどみ、成将を鬼の形相で睨んだのでございます。
「ち、違う。違うぞ。もし、そのような娘ならお前を呼んだりはせん。」
 それを聞き璃胡は表情を崩したのでございます。
「そんなに慌てなくても、貴方にそんな甲斐性がないのは分かっております。」
 どうやら、成将は璃胡に謀られた模様でございます。いつの世でも女は強いと言うことでございましょうが。
「で、なぜ将翔が女になっているのでございすか?」
「母上分かるのですか?」
 顔は男であった時とそう変わらぬと言っても男と女、一見して将翔と判断するのは難しいございましょう。
「将翔、母を侮るでございません。何度おまえが女だったらと想像したことか。あぁ、想像以上に可愛くなって。」
「は、母上いつもそんなことを考えていたのでござるか・・・。それに可愛いと言われましても・・・」
「なにを言ってるの?これを可愛いと言わずに何を可愛いというのですか?」
 そう言って、璃胡は先程持ってきた手鏡を将翔の眼前に突き出したのでございます。
「こ、これが、拙者・・・、でござるか?」 「こ、これが、拙者・・・、でござるか?」
 鏡に映るは絶世の美少女とまでは行かぬまでもかなりの美少女でございました。元来、女顔であった上に、璃胡ならずとも殆どの者が将翔が女ならばと一度は想像したことがある程であったのだから美しくなるのも道理でございましょう。
「にしても何故そのような姿に?」
「それは・・・」
 将翔は父と母に道場での事をつぶさに話したのでございます。
「そうですか、白い天女様が・・・。ありがたやありがたや。」
「しかし、血族から男から女になったものが出たとあれば讃鬼家の名折れ。どうしたものか。」
「貴方、それは大丈夫だと思いますよ。」
「それは何ゆえにそう思うのだ?」
「華乎。おまえ、天女様に家を守る為にということもお話ししたのですよね?」
 そう璃胡は言って、将翔の方に顔を向けたのでございます。
「華乎? 拙者のことでございますか?」
「えぇ、そうです。いつまでも将翔でいる訳にはきませぬでしょ?私の名前と天女様の名前を併せて『かこ』。漢字は『華を呼ぶ』からくち偏を取って『華乎』にしましょう。いいですね、貴方?」
「あ、あぁ。それで良かろう。」
「と言うことで華乎、おまえ、天女様に家を守る為にということもお話ししたのですよね?」
「はい、母上。」
「なら、将翔が女になったことで讃鬼家が潰れるということは無い筈。たとえば、讃鬼家以外のものは将翔を生来の女として記憶しているとかでしょう。」
「そんな、まさか。」
 そのまさかでございました。翌日確認したところ、一家を除く者すべて将翔という青年のことを覚えておらず代わりに華乎という少女のことは覚えていると口を揃えていったのでございました。

 まあ、その後、華乎は稀代の女流剣士として新しく来る時代に讃鬼奏剣流を知らしめる事になるのでございますが、その話は私の預かり知らぬはずのことにて、これにて閉幕。

 なに?お客さん、続きを聞きたいって?あぁ、よろしゅうございますよ。
 ただ先程も言ったように稀代の女剣士として活躍は預かり知らぬ事ゆえ、これから話すは簡単な与太話・三文話となりますがよろしゅうございますか?
 あぁ、よろしゅうございますか。ならば語りましょう。

 其はあくる日のひとコマでございます。
「母上、そろそろ勘弁して欲しいのでござるが・・・」
「なりませぬ。せめてあと15着は着てもらいます。」
「そんな、殺生な!!もう20着は着ているでござるよ〜!!」
 いつの世も息女(むすめ)を手に入れた母親は息女(むすめ)を着せ替え人形にする。
それは世の必然でございましょうか。





《後書きというかなんというか》
 え〜と、華代ちゃんの名前が出てきませんが華代ちゃん番外編です。
 表題のどおり、試作ということで弁士口調に挑戦してみましたがどうでしょう。

 ちなみに息女(むすめ)は造語です。
 と言うか実際は(そくじょ)としか読めません。
 そこを敢えて息子の息+女で(むすめ)と呼ばせて見ました。
 この話でTSっ娘というと趣に欠けるかなと思っての苦肉の策です。


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