トイレの花子さん誕生秘話・異聞録
作:天爛
それは、とある小学校での物語。
丑三つ時にはまだ早く、だが逢魔ヶ時――黄昏時――には遅すぎる、されど、空は闇に覆われて、校舎から子供達の騒ぎ声が消え去るには十分な時間だ。
そこに居るは、ただ一人の子供。何かの罰ゲームなのか、それとも忘れ物を取りに来たのか、はたまた単に興味心を惹かれて肝試しに来たのか……その理由は判らぬが、ただ一人子供が居た。
その子供はふとトイレに立ち寄った。そこから声がした様な気がしたからだ。
――『好奇心猫をも殺す』
そう昔の人は言った物だ……
トイレの扉を開き、中に入る。ぎい〜。なぜだか、いつもより重い音がした気がする。その子供は息を呑み、耳を澄ます。すると水滴が滴る音に混じり、個室の一室から低い男の声がした。数えるに奥から3番目の個室からだ。
「う、うぅ〜、ううぅぅ〜〜」
地の底から這いずり出るような、恐ろしい声する。普通の子供ならすぐ逃げ出す、そんな、おどろおどろしい声だ。
だが、しかし、その子供は逃げなかった。逃げ出す所が、逆に、その声の主に問い掛けた。そして、その判断が、運命を、――変えた。
「どうしたの?」
扉の前に立ち声を掛ける。
「か、かみ、かみを……」
「あっ――これ……」
声の主が言いたい事にいち早く気付き、手元にあった紙を扉の下から差し入れた。だが、しがし……
「チガウ、このかみじゃない……」
声の主が否定する。そして、続けざまに言葉を紡いていく……
「コノ『かみ』ジャナイ。ボクガホシイノハ、コノ『紙』ジャナク……」
――が、紡ぎ終わる前に……
「もちろん、それは判ってますよ♪」
その子供が中断させた。満面の笑みを顔に浮かべ、押し黙った声の主に、言葉を掛ける。
「『髪』ですよね? 任せてください♪」
そう問い掛ける。
「うっ、うお〜、お、おぉ〜、おおぉ〜」
扉の向こう側から声がした。だが、少女は、その声を気にする事もなく立ち去った。差し込んだ一枚の名刺と、言い慣れた言の葉を残して。
「また、お悩みがあったら声を掛けてくださいね」
その夜から、その小学校の七不思議がひとつ変化した。
『「髪をくれ」の幽霊』が居なくなり、代わりに『奥から3番目の個室、長い髪の女の子が……』
――ハ〜ナヨちゃん、は〜な〜そ〜〜
《後書きというかなんというか》
そして噂は捻じ曲がり……
時期ハズレですが、思い付いちまったのでww