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胡蝶の見る夢
作:天爛


 ボクは夢を見ていた。
 夢のボクは佐薙陽(さなぎ よう)という男の子で、その夢はいつも陽が目を覚ます所から始まった。

 目が覚めた陽はベッドから抜け出し、顔を洗いに洗面所に向かった。
 顔を洗い終わった陽はリビングに向かった。ナノハさんが作った朝食をとるためだ。

 最初、陽は1人で食事をとっていた。それから何日か1人で食事をとる事が続いた。
 ある日、陽はお手伝いさんであるナノハさんに、一緒に食事をとってくれないかと頼んだ。
 ナノハさんは喜んで引き受けてくれた。しばらくはナノハさんと陽の二人で食事をすることが続いた。
 それから時々、陽の両親とも一緒に食事をとるようにもなった。
 陽が一人で食事することを寂しく思っていることを知り、忙しい両親は時間があるときはなるべく陽と一緒に食事をとる様にしたらしい。
 それでも極まれにしか一緒にいられなかったけど、その心遣いが陽にはとても嬉しかった。

 ナノハさんと朝食をとったあと、学校に行く準備を急いでして学校へ向かった。
 陽は学校ではテント達とはしゃぎ回っていた。授業の内容なんて全然頭に入ってなかった。

 最初の頃、陽には友達がいなかった。それが普通だったから寂しくはなかった。
 でもある日の夢で陽は急に寂しさに襲われた。寂しさに耐えられなくなって隣の席の子に声を掛けた。
 それがテントだった。テントは最初、陽が話し掛けてきたことに驚いていた。
 けどすぐに打ち解けて友達になってくれた。
 その日から陽は学校へ行くのが楽しみになっていった。
 たまにテントと喧嘩することもあったけど、それも次の日にお互いが謝りあって仲直りした。
 喧嘩の出来る友達が出来たのが嬉しかったのは、陽だけの秘密だった。

 陽は学校が終ってからも日が暮れるまでテント達と遊んだ。
 それまで友達と遊んだことのなかった陽にとって、テント達とする遊びはとても刺激的だった。
 鬼ごっこも隠れんぼも馬とびも陽にはとても新鮮だった。

 その日は久しぶりに両親と食事をした。両親は陽に学校での出来事について、訊いてきた。
 陽はテント達と遊んだことばかり話した。
 「勉強もきちんとするのよ。」って苦笑しながら母に言われると、陽は「うん。」と笑顔で答えた。
 夕食のあとは風呂に入って床に着いた。いつもの様に陽が眠りにつくとボクは目が覚めた。

 目が覚めたボクはいつも不思議な感覚に囚われる。
 陽が本当のボクで、このボクは陽の見ている夢という感覚。
 ボクが自分のことを『ボク』というのも本当のボクが陽と言う男の子だからかも知れないと思う。
 でも、ボクにとってはどちらでもいい事だ。
 鳳(あげは)という少女であるボクには『ボク』がボクであることに違いが無いのだから。
 そして陽にいい事があった日はボクにもいい事がある。
「うん、今日はいい日。」
 ボクはそう呟いて、朝露に濡れた翅(はね)を広げた。




《後書きというかなんというか》
 幻想的な雰囲気に浸って貰えれば幸い。
 よく判らんと思われたなら失敗。
 でもよく判らんと言われる可能性が高いことを覚悟してるので遠慮なく言ったって下さい(笑
 一応、胡蝶の夢の胡蝶から見た……鳳(=夢)から見た陽(=現実)というイメージです。
 正確にはTSFとは違う気がしないでもありませんがw


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