フミ(旧制服) | |
夕焼けに染まった図書室。 そこにいるのは一人の生徒。ショートカットに黒渕メガネ。俗に言う文学少女の類に見受けられる。 図書室には他には誰もおらず、ただ『少女』が本のページを捲る音だけが支配していた。 そして『少女』はその音さえ聞こえないかのように本に集中していたが、その集中はひとりの乱入者によって中断された。 ―― タッ、タッ、タッ、タッ、ガシャッ 「待たせたな、フミ。そろそろ帰ろうぜ」 『フミ』と呼ばれた少女は、読みかけの本から目を離し、駆け込んできた少年に笑みを返す。 少女の瞳には、少女によく似た少年が映っていた。 よく似たと言っても、ただ似ているだけではない。フミの眼鏡がなければ誰も見分けられないだろうほどそっくりだった。 「アキラ、『図書室はお静かに』だよ?」 蚊の泣くような声。でも、フミとアキラ、たったふたりの図書室。 その小さな声で十分相手に届くのをフミは知っている。
From 『ヤオヨロヅ物語 第三話・前編 〜2nd:
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